言語聴覚士(ST)には、嚥下障害の患者を前にしたとき、検査値や画像、全身状態を読み解き、目の前の所見から病態を推測して安全な経口摂取への道筋を組み立てる「臨床推論」の思考を求められます。しかし手元の教科書や養成校でも、実践の思考まで踏み込んだ内容は網羅されていません。
さらに、STの数が少なく、互いに相談する時間や、先輩が後輩へ実践を指導する時間がほとんどありません。その結果、知識や技術が継承されず、STの専門性に大きな差が生まれ、現場でその専門性が十分に発揮されないまま「評価訓練の途中に主治医の一言で食事が始まり、STはただ毎日の昼食場面に付き添うだけ。STの終了はいつ?」といった状況すら生み出しています。
著者は、脳神経外科や神経内科、救命救急科、耳鼻咽喉科など、ほぼすべての診療科の医師と患者をめぐって本気で議論を重ねながら、臨床の方向性を構築してきました。急性期病院で身を削る医師たちは、いわば「歩く専門書」であり、立場の違いに臆さず、敬意を持って直接尋ねることこそが、専門書を読むよりもはるかに速く、深く知識を深める最速の方法です。
現場で揉まれ、多職種との対話のなかで自分なりに突き詰めてきた臨床の方向性を、同じ急性期で働くSTと共有したいという一心で記しました。多種多様な患者の評価結果の解釈の仕方など臨床技術のすべてを書き切ることは難しいため、まずは取りかかりやすいように、会う前の情報収集から、血液・画像の読み解き、ベッドサイドの評価といった臨床の流れをもとに、急性期STが初日から使える臨床推論の「骨格」だけを通して記しています。細部は読者自身が自分の臨床で肉づけしていくことを願い、確かな出発点となることを目指しています。